「忘」究極の思いやり?!

 今日は禅の言葉をご紹介します。
「十年歸不得忘却來時道」
(じゅうねん かえることをえざれば、らいじのみちを ぼうきゃくす)

 十年も帰らなければ、故郷への道も忘れてしまうという意味。ふるさとへの道も忘れてしまうほど帰省しないなんて、それでいいのかと反発したくなりますが、禅では、これでOKなのです。
 なぜなら、今が充実していればこその忘却なのだから「悟ったことすら忘れてしまえ。それが空(くう)なのだ」と。
 わたしたち凡人に空(くう)なんて状態は、一体何のことやらわかりませんが、禅の状況に言い換えれば執着しないということ(※本来の空(くう)は、もっと奥深いのですが、ここでは言及しません)。

 この禅語から、わたしは過去に仲の良かった友人Aのことを思い出しました。友人Aは記憶力に長け、頭脳明晰でした。羨ましい限りでしたが、時折、可愛そうに思えることがあったのです。
「昔、あんな酷い目に遭ったのよ。」
「あの時、あの子はこんな皮肉を言ったの。許せない!」
「言われた方は一生忘れないんだから!」
 随分昔の出来事も鮮明に覚えており、いつまでもムカついているのです。

 もし、あなたが素晴らしい記憶力を授かったとしても、良い思い出や知識だけではなく、悪い思い出も全て忘れることが出来なかったらどうですか?覚えていて気分が悪くなるのは、むしろあなたの方。復讐すれば、それなりにスッキリするかもしれませんが、そこに至るまでの時間と手間はムダです。

 全てにおいて当てはまるとは言えませんが、相手の罪を忘れてあげることは、許す能力でもあります。いつまでも嫌な出来事に執着し、心に怒りの根を張っていては、本人が一番辛いでしょう。
 結局、友人Aは私のある発言をいつまでも許せずに去っていきました。

 思い起こしてみれば、彼女は人生が満たされていませんでした。今が充実していればこその忘却とは、よくぞ言ったものです。
 楽しいことで嫌な過去が帳消しにされてしまうことって、確かにあります。
「あの頃は嫌な目にも遭ったけど、あの経験があったからこそ、今があるんだよな!」笑って言えたら最高ですね。

※ 参考文献;『心に響く禅のことば108』正木晃編集、高井正俊・永井宗直監修(PHP研究所)

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